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ナーチャリング 顧客の好意を獲得する「好意の返報性」の使い方

執筆者

認定心理士マーケター

村田芳実

 

マーケティングの使命の一つにナーチャリング(顧客育成)があります。私は、ロイヤルカスタマを倍増させた経験がありますが、そこで使用した心理理論が「好意の返報性」でした。「好意の返報性」とは、好意を受けると好意で返さなければならないと考える心理です。また、YONOHIのPRサービスが「好意の返報性」を表していることが分かりました。今回は、「好意の返報性」の理論と事例を紹介し、その使い方を検討します。

 

【ナーチャリングが求められる理由】

日本のマーケティング研究の代表的な研究者の恩藏直人氏によれば、ナーチャリングのプロセスは、「見込み客⇒初めての顧客⇒リピート客⇒クライアント⇒信奉者」だと述べています。そして、「クライアントとは、売り手も買い手もお互いを理解することによって、売り手から特別扱いされる顧客のことである。信奉者とは、熱狂的な支持者であり、自社製品のすばらしさを伝え、自社製品を薦めてくれる」と述べています。ナーチャリングとは、このプロセスのレベルを上げていくことです。

 

他社の商品やサービスを購入する割合を「顧客の離反率」と呼んでいます。恩藏氏は「一般的に、企業は毎年10%もの顧客を失っている」としています。また、「既存顧客を獲得するコストは、既存顧客を維持するためのコストに比べて5倍は必要とされる」と述べています。

以上のことから、離反率を下げ、販売コストを下げることが求められ、そのためにナーチャリングが重要視されているのです。

 

参考文献:マーケティング論 恩藏直人 放送大学教育振興会

 

【返報性と互恵性】

世の中は、人々の相互協力状態で成り立っています。これを互恵性といい、全世界のほとんどの文化において一般的な行動原理となっています。「情けはひとのためならず」といいますが、相手のための行動は自分に返ってきます。今でいうなら、ブーメランです。

心理学博士グリーンバーグは、心理的負債という心理が存在すると提唱しました。心理的負債というのは、「援助された場合、お返ししなければならないという義務を感じる心理」です。また、返報性の原理というセオリーがあり、アメリカの社会学者グールドナーが提唱した概念で、私たちは、支援を受けると、お返しをしなければならないと考える心理です。いわゆるギブ・アンド・テイクです。本レポートでは、返報性の原理の中でも、好意についての返報性である「好意の返報性」について述べていきます。

お客様が感動するほどの対応をすれば、お客さまから好かれるということです。

 

【YONOHIの取組みに見る「好意の返報性」 キーワードは「世のため人のため」】

YONOHIは「世のため人のため」を会社理念としています。そこで、考えたのが「PRサービス」でした。お客様は、PRのために動画を制作するわけですから、できる限り多くの人に動画を見てほしいはずです。ですから、プレスリリースをすることで報道を促してPRするサービスを考案したのでした。

このプレスリリースの設計にあたって、お客様の作成意図や動画作品の満足感を知るためのお客様の意見、そして、ディレクターがどのような想いをこめて動画作品を制作してきたかを明らかにしたいという意図からディレクターの意見も紹介することにしました。

 

その結果、2022.1.22現在、16社がこのサービスを利用していますが、そのうち、15社が感謝の言葉や満足したことを述べています。つまり、「好意の返報性」が働いたのは、93.8%に上るということが明らかになりました。

実は、お客様とディレクターの間には予想外のやり取りがありました。これが「好意の返報性」の効果と考えられます。ディレクターが一生懸命に動画をディレクションしたことがお客様に伝わり、そのお返しとして感謝の言葉となったのです。さらに、文章化し報道されることにより、その気持ちを強める効果を表したのです。これを「一貫性」といい、一旦表明した事柄については、その考えを貫き通す心理です。つまり、この企画は「好意の返報性」を表面化させ、両者の想いを促進する効果があったのです。

 

【「好意の返報性」によるナーチャリングの事例】

次に「好意の返報性」がナーチャリングに影響するかという問題です。私は、メーカーのユーザー会の事務局長に就任しました。そのユーザー会は、じり貧で閉会を模索する状態でした。会の立て直しがミッションになり、何をすべきかが分からず困惑しましたが、ようやくたどり着いたのが「会員のための会」にすることでした。すなわち会員のための運営をすることでした。ここにYONOHIとの共通点があります。

 

当時、不況のただなかで、多くの経営者は経営のかじ取りに迷っていました。そこで、有名企業の経営者を招き、成功の秘訣を学ぶ講演会を企画しました。ただそれだけでなく、講演会後のパーティでは、有名企業の経営者と名刺交換をして歓談できる場を用意したのです。出席者も経営者で、プライドが高いこともあり、この企画は大成功しました。「ギブ・アンド・テイク」のギブに当たります。

 

また、高付加価値対応、環境対策、心理学を利用した人材育成法など会員のための施策を次々にリリースしてきました。こうして「会員のため」という気持ちがユーザー業界内に浸透していきました。そして、10年後のこの会の出席者は2倍になったのでした。

この会は、経営者の会でクライアントや信奉者が集まる会でした。つまり、クライアントや信奉者が2倍になったのでした。「好意の返報性」がナーチャリングを促進するということを物語っています。ちなみに、この会の参加企業の離反率を調べたところ約2%でした。つまり、離反率は1/5に下がったことになります。

 

【好意の返報性の使い方】

返報性の原理が起動する要件ですが、「ギブ・アンド・テイク」が示すように、与えることを先行させることです。「購入した方に○○をプレゼント」というのはテイクが先行しますので、好意の返報性は起動しません。「お客様のために」という考え方を貫くことです。

また、ギブ・アンド・テイクというと価格を下げることやオマケをつけることだと考えがちですが、このようなことでは、好意の返報性は起動しません。YONOHIのディレクターのようにもっと顧客の心に刺さる対応が必要なのです。

 

【まとめ】

好意の返報性について説明して、それを利用したメーカーでの事例を説明してきましたが、非常に影響力のあることが理解できたと思います。YONOHIのPRサービスについても返報性の原理を利用していることを述べてきました。そして、「お客様のために」という気持ちがお客様の好意につながり、それを継続していくことで徐々にナーチャリングが進んでいくことがおわかりになったと思います。

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